自分が輝ける職場を選ぼう

2006年10月31日掲載

障がいのある人の希望にかなった就労支援を目指して活動している、練馬区障害者就労促進協会の木野村なぎささんにお話を伺いました。

知的障がいのある人への就労支援

聞き手:障がいのある人への就労支援をされているとのことですが、現在の仕事内容を具体的にお聞かせいただけますか?

木野村:写真:木野村さんがインタビューににこやかに答えている様子現在、私は練馬区障害者就労促進協会で働いています。この協会は、平成2年の11月に練馬区の外郭団体として設立された団体です。 一般企業で働くことを希望している障がいのある方への支援として、主に、職業相談、就職支援、フォローアップの3つを事業として行っています。
私はその中でも、就職支援を担当しています。その活動の1つに、知的障がいのある方への「ワークルーム」という職業事前準備訓練があります。これは、1クール4週間で年間4回、参加者を募って行っています。作業トレーニングを行い、その評価を基に職場開拓、就職活動をして、最終的には、就職までを支援するものです。

聞き手:具体的にトレーニングの内容はどのようなものなのでしょうか?

木野村: 今は、事務作業についてのトレーニングが多いですね。郵便物の封入や、書類などをシュレッダーにかける作業、または、伝票の作成・仕分作業などが中心です。それとは別に、必ず区役所で、体験実習もしていただいています。 なぜなら、会社や社会に出る経験があまりなかった方もいらっしゃいますので、区役所内での体験実習を通して、働く上で必要なマナーも学んで欲しいという願いがあるからです。 仕事のためのスキルも重要ですが、マナーを知るということで職場での人間関係を円滑にする手助けになると思うんですよね。
例をあげますと、エレベーターに乗るとき、降りる人を優先して扉の前を空けて待つとか、あいさつをするにしても、職場では大きな声を出すのではなく、軽く会釈をするだけの場面もあるとか。私たちが生活の中で身につけてきたものを、学んでいただいています。

聞き手:仕事では人間関係も重要ですよね。区役所では、どのような作業をしているのですか?

木野村:メールの仕分けと集配です。 区役所には、多くの方が働いており、部や課もたくさんあります。当然、内部の配布資料や外部から届いた手紙など膨大な量があるので、それを部や課ごとに仕分ける作業をやっていただいています。
そこで興味深いことがありました。知的障がいのある人の場合、文字の読み書きができない方も多いのですが、メールの仕分けは、問題なくできるのです。 字が読めないと、文字を照らし合わせることができないのではないかと思いがちですが、形として覚えられる。「障害者課」の読み方を知らなくても、「障害」という形が一致すれば、手紙を棚に入れることができるんですよね。

刺激し合う仲間たち

聞き手:写真:二人で話し合っている様子固定観念に縛られずに、チャレンジしていくことが大切なんですね。ところで、皆さん、はっきり「働きたい」と考えてこちらに来られるのですか?

木野村:はっきりと就職を目指すというよりは、自分は何をしていいのかわからないけれども、「働いた方がいいのかな」「働かないとダメなのかもしれない」と考えて来る、という人が多いかもしれません。

聞き手:その場合、働く意欲を引き出すことは難しいのではないでしょうか?

木野村:1対1だと、とても難しいのだと思います。ところが、グループで作業をしていると、それほど難しくありません。なぜなら、グループの誰かが自分ができないことをやっていたり、実習に行ったりしていると、意識がだんだん変わっていくんですよね。一緒にいる仲間の上達が、良い刺激になっているのだと思います。

聞き手:仲間同士で、刺激し合っているということですね。

木野村:そうですね。知的障がいがあっても、みなさんいろいろな能力を持っています。「彼は私よりもパソコン入力の能力は高いんだ」とか、「細かいことをさせるとこの人の持続力はすごい」というようなことは、お互い感じて理解しあっているようです。

人の可能性は計れない

聞き手:トレーニングをしながら職場も探していくわけですよね。職場を探す上で難しいと思うことはどのようなことでしょうか?

木野村: まず、「働きたい」という方と会ったときに、こちらが勝手に「難しいな」、と判断してはダメなんですよね。
初めて就労支援をしたときのことです。知的障がいのある方が相談にきたのですが、そのとき「この人が働きたいと思っているなら、この人を雇う会社を探せばいいんだ。」と思ったのです。 その方と仕事を探し始めたのですが、忘れられないできごとがあったんですね。もう10年以上前のことですが、相談先で、「木野村さん、あなた本当にこの人、働けると思っているの?」 と言われたのです。私は怒ることもなく「わかりません。」と答えました。 では、「この人が働けるかどうか、わかる人って誰なのかな」と考えていたところ、障がいのある人が、働けるのかどうかを判断するプロがいると紹介されました。
実際にその方のところへ行ってみました。すると、何種類かの簡単な作業テストをしたんです。それはそれで、何ができるかを判断しているということは分かったのですが、私は「プロとはこういうことなのかな?」と疑問に思いました。 働けるということと、何かができることは、一致することでしょうか?能力があるからといって、それをどこでも100%活かせるとは限りませんよね。 同じ事務作業でも、環境によって、その人の能力が活かせるかどうか、ずいぶんと変わることがあります。そういうことは、普段はっきり意識していないかもしれないけれど、みんな知っていることですよね。 こんなテストだけで、「あなたは働けます。」「あなたは働けません。」と判断されてしまうということに、すごい衝撃を受けました。

自分を活かせる環境選び

聞き手:障がいのある人が、能力を十分に発揮できる職場を探すためには、どのようなことがポイントになると思いますか?

木野村:写真:ジェスチャーを加え笑顔でインタビューに答えている木野村さんの様子どんな会社でも、会社によって人の評価は、まったく違いますよね。私は、会社が求めているものが、その人の一番いいところと合致すればいいと思うんですよ。 たとえば、私たちが就職活動をしようと考えるときにやることを、そのまま障がいのある方にも当てはめて行動すれば良いと思うのです。たまたま障がいがあるということで、そこに何か支援が必要であればその支援を私たちが考えるという、それだけの違いです。 誰でも就職活動するとき、その会社をよく調べると思います。その上で、自分にできることを分析し、自分の能力を会社に売り込む方法を考えてアピールしますよね。 これは知的障がいがある方も一緒です。 ですから、その仕事ができるということと合わせて、その会社の社風と合っているかどうかということをシンプルに考えればいいのではないでしょうか。

聞き手:仕事内容を選ぶときは、いかがでしょう?いくつかやりたい仕事があって、自分では決められないときもありますよね。そんなときに、適性を誰かに判断されることで、力を発揮できる人もいると思うのですが。

木野村:そうですね。はっきりとニーズを持って私たちのところに来る方は少ないですから、そういう方たちに、私たちはいろいろな仕事を紹介していきます。判断できない大きな原因は、情報が不足していることだと私たちは考えています。 世の中にどれくらいの仕事があるのか、それを実際に自分でできるかどうかということもわからない。そのときに私たちができることは、「こんな仕事があります、あんな仕事があります。」と、その人の力が発揮できそうな仕事の情報を提供していくことなのです。 特に知的障害のある人の場合、言葉だけで伝えて、それをイメージするのは難しいですよね。ですから、一緒に見学に行ったり、実際に働いてみてもらったりして、本人の判断を引き出すということが必要です。その上で、本人がこの会社でどういう能力を発揮するか一緒に考え、環境を作っていくのが私たちの役割なのです。

楽しいから続けてきた仕事

聞き手:仕事を、困難なことも嬉しいことも含めて楽しめるというのは、うらやましいですね(笑)。支援しているというより、利用者と一緒に作り上げていくという感じでしょうか。そういうことが、木野村さんのやりがいにつながるのでしょうね。

木野村:そうですね。基本的にものを作ることが好きなんです。仕事ではないですが、今すごく凝っているのが猫の食餌。家には拾った猫がいるのですが、検査をしたところ、白血病ウイルスに感染していたんです。感染すると3年以内に7割から8割の猫が死ぬというデータが出ていました。でも残り2割から3割の猫は生き続けている。では、その生存する2割、3割にどうやってうちの猫を入れるかと考えました。以前から「猫は肉食なのに、ペットフードの食餌でいいのだろうか?」と、家では猫の食餌は生肉にしていたんです。今回、白血病の猫を拾って、いろいろ調べていくと、肉の栄養素や、肉の種類によって体を温めるものがあることなどがわかってきました。だんだん面白くなってもっと調べていくと、猫には生肉とその他のいくつかの栄養素が良いという結論にたどりついたのです。この餌をやり続けた3ヶ月後、なんとウイルスを撃退していたんですよ。すごいでしょう(笑)。 このように、面白いと思うといろいろ調べて目標を達成していこうと考えるんですよね。

聞き手:必ず達成しようと考えて実行するのですか?

木野村:そうです。「達成するはずだ!」という気持ちで、そのための方法を考えます。失敗は考えていないですね。特に今回の猫の場合、どんなに過程が良くても、結果として生存する2割から3割に入らないと意味がないですからね。必ず達成するという気持ちが大切なのだと思います。
仕事でも、まず、「目の前にいる人、相談しにきた人たちの希望をかなえるにはどうすればいいのか。」と考えることと同じだと思います。私たちのところに相談に来るということは、勇気がいることだと思うんです。誰でも、見ず知らずの人に相談するとき、お茶をするような気分では行けないですよね。だからこそ、そういう勇気を持って私どものもとへ来ていただいた方に対しては、誠心誠意を尽くして、サービスを提供していかなければいけないと思っています。世の中には、もっといろいろな障がいのある人がいるのは分かっていますが、まずは目の前の人に対して、全力を尽くすことが私に与えられたことだと思うのです。

聞き手:最後に、今後の木野村さんの活動について、展望などをお聞かせください。

木野村:私は、今やっている仕事が好きです。人と出会って、その人の希望をかなえていく。 良い出会いをして、いいな、好きだなと思った人と、良い関係を作っていきたいです。 そして、「こういう仕事をしてみたい」とか、「きれいな服を着ながら仕事をしたい」とか、そういう様々な人の希望をひとつでも多くかなえていきたいと思います。

聞き手:木野村さんと出会って、勇気が出たり、希望がかなったりした人がたくさんいるのでしょうね。これからも多くの出会いをして、たくさんの人の希望をかなえていってください。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

「練馬区障害者就労促進協会(愛称:レインボーワーク)」についてはこちら(新しいウィンドウが開きます)

プロフィール

木野村 なぎさ/きのむら なぎさ

写真:木野村さんの笑顔の様子北海道 出身
1983年 道都大学社会福祉学部卒業
1992年 練馬区障害者就労促進協会指導員となる

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