一本のロープでつながる視覚障がい者との絆 – part.2

前回に続き、視覚障がい者の「目」となる伴走者として活躍する中田さん(NTTデータ所属)へのインタビューです。

写真:左が視覚障がいのあるランナー、右が伴走しながら一緒にトラックを走っている中田さんの様子

選手と同じ気持ちを持って

聞き手:ここで少し、リオパラリンピックについてもお聞かせください。
やはり、メダルを狙うという気持ちで出場されたわけですよね。 その際、最も重視したことはどのようなことでしたか?

中田:写真:左が視覚障がいのあるランナー、右が伴走しながら時計でタイムを見て一緒に走っている中田さんの様子私は常日頃から、選手に何を目標にしているのかをしっかり聞いて、すり合せをして伴走に取組んでいます。ここが一番重要な点です。
例えば、2012年のロンドンパラリンピックの前、和田選手の目標と私の目標にずれがありました。そのずれを修正してからトレーニングをしていかないと目標は達成できません。
具体的に言うと、和田選手はフルマラソンで勝負したいと思っていたのです。ただ、私が和田選手と初めて一緒に走ったとき、100メートルほどのダッシュを一緒に行いました。 そこでマラソンではなく、5,000メートルだったらメダルのチャンスがあると強く感じました。一方で和田選手は、走り始めてからスピードを出して走る機会が少なく、マラソンが向いていると思っていました。
しかし、なかなか言葉だけで理解してもらえるものではありません。5,000メートルが適していると伝えても納得していただかなくては、本当に良いトレーニングができません。マラソンの練習をベースにしながら、5,000メートルの練習を入れているうちに、和田選手のスピードが磨かれました。
5,000メートルが適性に合っていると感じてもらうことができ、5,000メートルに専念したトレーニングに一緒に取組めるようになりました。本人が心からそうだと思い、同じ目標に向かうことができました。そして、ロンドンパラリンピックではメダルを獲得することができました。
2016年のリオデジャネイロパラリンピックでは、メダルを獲得することはできませんでしたが、ふたりの目標は一致しており、1,500メートルでは4年ぶりに日本記録を更新するなど、現状の力を全て出し切ることができました。
メダル獲得は他の選手次第という面もありますが、自分の力を出し切るというのは自分達次第です。力を出し切るということができたことは、とても嬉しかったです。

聞き手:二人の強い気持ちと、一緒に練習をしてきた積み重ねですよね。
さてその練習ですが、和田選手は大阪で、中田さんは東京にいらっしゃいます。 一緒に練習したり、会ってすぐ話ができる環境ではありませんが、どのようにされていたんですか?

写真:左が視覚障がいのあるランナー、右が伴走しながら一緒にトラックを走っている中田さんの様子

中田:頻繁に電話やメールで連絡を取合いながら、練習内容を把握していました。最新のGPS時計を使うことで、トレーニング状況が詳細まで共有できるようになりました。トレーニングのタイムだけではなく、何時にスタートして、どのコースを何キロ走って、心拍数がいくつで、上下動やピッチ数、ストライド、気温や風向きなどもウェブ上で確認できるのです。
以前は、トレーニングのタイムのみが共有されていたので、タイムが悪かったときに、「調子が悪かったのかな?」と思っていました。詳細が共有されたことで、気象条件が悪かったのか、伴走者のピッチに合わせて走ったのかなど、練習内容が本当はどのような状況だったのか理解でき、分析することができます。
主観的なところは電話やメールでのコミュニケーションで、客観的なところはデータを取って共有しています。そこから練習メニューを組み、選手に伝えています。言葉だけの説明ではピンとこなくても、数字は明確で説得力があります。

聞き手:管理を徹底されているのですね。中田さんご自身の練習時間はどうされているのですか。
それと、国際大会やパラリンピックに出場となると、仕事の調整もありますよね。

中田:平日は十分な練習時間はとれません。仕事の波を見越して、週のトレーニングを計画しています。早く帰れそうな日に、量も多く、質も高いトレーニングで追い込めるように、体調を整えています。
残業で終電になることも多いのですが、そのような場合には最寄駅より3駅くらい手前で降りて、自宅までスーツのまま走るというような工夫もしています。
国際大会で伴走するには、走力や伴走技術だけではなく、必ず必要となるのが会社、職場の理解があるかどうかだと思っています。
リオに行った伴走者もみんな同じように、練習時間をいかに自分なりに確保するかを考えてトレーニングを行い、そして、職場の理解のおかげで参加できていました。職場の応援を受けて競技していくというのは、選手にとってもモチベーションになります。だからこそ、早朝や夜間のトレーニングでも継続できるのだと思います。

人生を変える伴走を続けたい

聞き手:周囲のサポートはやはり大事だと思います。
中田さんにとっての伴走の魅力ってどんなことですか?

写真:笑顔でインタビューに答える中田さんの様子中田:魅力としては、一緒に勝負できるところ、そして、声掛け、息の合わせ方で結果が変わるところです。
ロンドンパラリンピックは、和田選手と私のペアだったからメダルを獲ることができたと思いますし、リオパラリンピックの1,500メートルで日本新記録を出せたのは、和田選手と私だからだと思います。
自分の勝負勘で結果が変わることも魅力です。選手からは駆け引きについては、全面的に任されています。選手の走力だけじゃなく、伴走者の勝負強さも非常に大きな影響を及ぼします。
そのため、日々の練習から本番を想定し、このタイミングではどういう声掛けをすればいいとか、他の選手の心理状態を揺さぶる英語での声掛けなど、その勝負の駆け引きがやっぱり面白いです。
また、ここが勝負と思った時には、選手も同じ思いを持ち二人で目標に向かうところがやりがいがあります。

聞き手:中田さんだからできるという熱い思いを感じます。
伴走者の勝負勘で結果が変わることもあるのですね。

中田:それと、競技以外の活動の幅が広がることです。
アテネパラリンピックで高橋選手が金メダルを獲ったときなどは、まさにそれを間近で感じました。
高橋選手は、金メダリストとして多くの講演を行い、ロープがボロボロになるまで、子どもたちを始め多くの方々に触ってもらい、パラリンピックを身近に知ってもらう、メダルの重要さを実感してもらう活動をしていました。
私もパラリンピックで伴走をしたことで、子どもたちにパラリンピックを知ってもらう活動ができるようになりました。

聞き手:今後、伴走を通してチャレンジしていきたいことを教えてください。

中田:そうですね。街なかで視覚障がい者が困っている様子を見たときに、気になっているけど、どう声をかけたらいいかわからない方は多いと思います。声の掛け方や、誘導できるような歩き方などを伝えていきたいですね。
今、個人的に伴走教室を開いていますが、走り方だけではなく、街中での声の掛け方や誘導の仕方もお伝えしています。
最近は、伴走教室の依頼を自治体からいただくこともありますし、小中学校から講演の依頼を頂くこともあります。また、会社の社会貢献活動の一環として出向くというのも増えております。
そして、やはり東京パラリンピックでメダルを獲ることが目標です。選手と共に、今何が必要で、何をすべきなのかを考えながら、日々トレーニングを積み重ねています。
伴走技術も磨き、選手の力になれる伴走ができるように頑張ります。

イラスト:編集後記

視覚障がい者と一緒に走る伴走者。競技の伴走者というのは、同じ目的に向かって日々努力していること、世界を目指すためには、共に戦うことが必要だと感じました。
お話を伺う中で、本当に伴走に対する熱い思いを語っていただき、厳しさの中にも、相手を思うやさしさが伝わってきました。
選手はその気持ちがわかって頑張れるのだと思います。
写真:インタビュアーと二人笑顔でNTTDaTaのロゴの前での記念写真 伴走者と視覚障がい者は一本のロープを持って走りますが、その一本のロープはまさに強い「絆」で結ばれているのだと感じました。マラソンという身近なスポーツで、視覚障がい者に欠かせない伴走が広がっていくとうれしいです。

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