夢に向かって一歩ずつ!視覚障がい者マラソン-NTT西日本堀越選手の挑戦(後半)

写真:堀越選手が練習中の様子

前回に続き、リオパラリンピックの視覚障がい者マラソンに出場する堀越さん(NTT西日本所属)へのインタビューです。
ぜひ、ご覧ください。

自分との闘いを乗り越えてから得るものがある

聞き手:企業の陸上部という整った環境の中で練習されていると思いますが、その中でも苦労することや大変だなと思うことはありますか?

堀越:たくさんありますね。
自分の場合、伴走をつけず単独で走っていますが、段差がわからない、自転車が急に飛び出して危ない、歩道の真ん中にポールが立っていることに気づかないとか、いくら走りなれている道であってもこけたりすることが結構あって怖いですね。
チームで一緒に走っているときには、声で「段差あるよ」「自転車くるよ」とか伝えてくれますので、なるべく誰かと一緒に走るようにしています。 しかし、毎日一緒というのも、メンバーも自分の練習があるし、自分も孤独の中で走るというのも一つの練習かなと思っています。

聞き手:やっぱり大変なことが多いですね。では、これは嬉しいなと思うことはありますか?

堀越:まずは、陸上部のメンバーが同じように接してくれていることでしょうか。障がい者だからと、腫れ物に触るみたいなことはないです。
実力差はすごくあるんですけど、同じチームの仲間としてみてくれているんじゃないかなと、個人的には思っています。本当のところは、みんながどう思っているかは分からないですけど(笑)。
監督からも、重要なのはタイムと国際大会の成績で、基本的に実業団選手の一人として見ていると言われています。
私としては、周りのみんなのレベルが高いので劣等感を感じることはありますが、逆にそこをうまくモチベーションに変えているというのがありますかね。
例えば、自分の同期で、5000メートルを13分50秒くらいで走る選手がいます。ロンドンパラのT12の優勝タイムが13分53秒くらいだったので、要はそれくらいのレベルじゃないといけない。
その同期が自己ベストを更新したら、俺も頑張らなきゃと思えるようになりました。逆に、自分が練習できつくて「ゲーゲー」いいながら走っている姿をみて、『堀越は遅いけど頑張っているから俺も頑張ろう!』と思ってくれたら、嬉しいなと思います。身近にそういう選手がいるっていうのは自分にとってはとても励みになりますから。また、そう見てもらえるように1回1回の練習は真剣にしっかりやるようにしています。

写真:堀越選手のインタビュー時の様子

聞き手:強い思いで練習し、結果を出すのが本番だと思います。
これまでのレースで、印象に残っている大会はありますか?

堀越:印象的なレースは3つあります。
まず一つは良かったレースで、2012ロンドンパラリンピックの5,000メートルです。それまで周りからは、14分台は出ないだろうと思われていましたが、結果は14分48秒で自己ベストを大幅に更新しました。
その時は、気象条件、それまでの調整、レース展開など何もかもがそろっていました。特にレースは、自分のペースに合った選手が前にいて、ずっとついて行ってラストで抜くという理想的な展開でした。
自分でも不思議なくらいで、ロンドンパラは印象に残っています。
失敗したレースとして、先ほども少しお話した2014防府読売マラソンと、2015年にカタールのドーハで開催されたIPC陸上世界選手権が印象深いです。
初フルマラソンである防府マラソンは、監督に練習メニューを作ってもらい、練習をこなしましたが、疲労の抜き方がわかっていなかったので、調整がうまくいきませんでした。それと、レースのペース配分を誤ったことです。
5,000メートルの場合、きついところを超えると、ふっと楽になる瞬間があります。そのため、マラソンでもきっとどこかで楽になる瞬間があるだろうと思いながら走っていましたが、30キロを超えてもその瞬間は訪れず、後半で大失速して地獄でした。
レースを終えて考えると、レース直前の最後の週は走り過ぎて疲労が抜け切れていなかったことや、今までキツイ練習をしてきたから大丈夫と軽く思っていたこと、そして5,000メートルとマラソンの違いなどがわかり、いい経験になりました。
その辺の反省点を踏まえて、昨年のドーハ世界選手権も印象に残っているレースです。
その時は、万全な状態で現地入りして、体もめちゃめちゃ軽くて、絶対いける!と思って調整しました。
ところが、逆に調子が良すぎたんです。小さな自分の変化、普段よりちょっと緊張している感じ、メダルを意識しすぎている感情など、そういうところに気づけず、結果失敗してしまいました。
万全な状態でも見落としがあったり、油断したりすると足元をすくわれるという、いい意味で印象に残ったレースです。
練習でいくらできてもレースで結果がでないと意味がありません。どちらかというと練習で走れてレースで走れないタイプなんですよね(笑)。

自分の可能性を信じて、あきらめない、やってみるが大事

写真:視覚障がい者用ビブス

聞き手:悔しいことやうれしいことがあって、本当に走ることが好きなんですね。
堀越さんにとってマラソンの魅力って何でしょう?

堀越:そもそも、自分は長い距離が得意なんです。練習で40キロ走をしても苦になりません。その自分の強みを存分に生かすことができる種目というのが一つです。
それと、マラソンは何があるかわからない。ほかの種目もそれは言えますが、特にマラソンはそう思います。
たとえば、タイム差が3分あったとしても、自分の体調が絶好調で相手が絶不調だったら42.195キロの中でどこかで逆転できる可能性があります。自分は1キロ1秒でつめて行き、相手も徐々に遅れてくるとなれば可能です。短い距離では無理ですが、マラソンではできるんです。
そのように、リスクはありますけど、自分にも戦うチャンスがあるというのが一番魅力的なことですね。

聞き手:リオに向けての意気込みをお願いします。

堀越:まずは、メダルを取るという目的意識をしっかり持って練習に取り組んでいきたいと思います。
お世話になっている方に対して、カタチで結果を残したいです。
本当に、チームの仲間、職場の方、応援してくれる方、たくさんいますので、そういう人たちの期待に応えたいです。
私の最終目標として東京でメダルを取るというのがあり、今回のリオではそれにつながる走りをしたいと思っています。
話はそれるかもしれませんが、レースは宝くじみたいなものだと思っています。
練習したからといって必ず結果が出るわけではないですが、練習をしないと結果はでません。しかし、練習すればするほど確率は上がります。これは宝くじも同じで、買わなかったら当たらないけど、1枚買えばその1枚が当たるかもしれないし、100枚買ったら当たる確率はもっと増えるというように。
先ほども言いましたが、マラソンは最後までどうなるかわかりません。
しっかりと練習を積み、選ばれた選手としてしっかり責任感をもって、みなさんの応援を糧にして走ってきます。

聞き手:最後に、障がいがあっても世界を目指す堀越さんから、読者の方へのメッセージなどいただけますでしょうか。
当事者だから言えることって大きな力になると思うんです。

写真:堀越選手のインタビュー時の様子

堀越:そうですね。
自分としては、自分に障がいがあるから駄目とか、ネガティブになることはありません。
チームメイトと実力の差があるのは障がいのせいではなく、自分の力のせいだと思っています。
もしも、障がいのあることによって何かやってみたいことがあっても、それに一歩たじろいでいる人がいるとしたら、ぜひまずはやってみるということを大切にしてほしいです。
自分も陸上をやってみなかったら、今ここには座っていないですし、NTTに入っていなかったと思います。
何をしていたかわからないです。
陸上を始めてからも、正直パラリンピックを意識したのは、大学1年の冬でした。
それまで、パラリンピックに出るとは思っていませんでした。
だから最初は、どんな些細な目標でもいいんです。
たとえば、陸上であれば、ちょっと体を動かしてみよう、走ってみようとか、そういうことが積み重なって、どんどん強くなるということがあるかもしれません。
思い切ってチャンスにかけるということが大事です。
そのチャンスをつかむことができるかどうかは、自分次第です。
支援する側としては、そういう人の背中を押してほしいと思います。
一度しかない人生ですから、やってみたいと思ったら挑戦してほしいと思います。

聞き手:確かにそうですよね。
チャンスは自分でつかむものだと教わりました。
リオ・パラリンピックでのメダル獲得、日本から応援しています。
本日は、お忙しい中どうもありがとうございました。

プロフィール

堀越 信司(ほりこし ただし)

生年月日:1988年7月19日
入社:2011年4月
所属:NTTマーケティングアクト 光サービス事業推進部 CRM推進部門 業務推進担当
障がい:視覚障がい T12クラス

主な大会戦歴・自己ベスト

・2008年北京パラリンピック
5,000メートル、1,500メートル日本代表
・2012年ロンドンパラリンピック
5,000メートル日本代表 5位
・2015年ロンドンマラソン兼IPC世界陸上選手権
フルマラソン銅メダル

*フルマラソンベスト記録:2時間27分42秒

イラスト:編集後記

写真:堀越選手と編集長の様子今回、障がい者陸上の視覚障がい者マラソンを紹介しました。
最近、テレビのマラソン中継でも視覚障がい者マラソンが取り上げられ、伴走者と走る様子を見たことがある方もいらっしゃるかと思います。
もちろん中には、インタビューした堀越さんのように一人で走るランナーもいます。
障がいがあっても、工夫しながら練習して自分の夢に向かっている姿が印象的でした。
マラソンという身近なスポーツから、障がい者スポーツの認知度が広がり、少しずつ障がい者への理解へつながることに期待したいです。

夢に向かって一歩ずつ!視覚障がい者マラソン-NTT西日本堀越選手の挑戦(前半)

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